近所の新古書店で雑誌「文學界・7月号(2018)」を目にした。
表紙に創作・村上春樹最新短編3作同時掲載「三つの短い話」となっている。
<石のまくらに>、<クリーム>、<チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ>のタイトルが並ぶ。
最も注目したのは<チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ>。
物語は作者の学生時代のころに、全くの創作としてC.パーカーとアントニオ・カルロス・ジョビンの顔合わせによるレコード吹き込みがなされた・・・とのエピソードから始まる文章がふとしたきっかけから、まったくあり得ない話なのに編集長は疑いもなくこの文章を大学の文芸誌に掲載する。
ジャズの歴史を振り返ってみるまでもなく、C.パーカー存命の時代には「ボサノバ」はなかった。
じっさいのところ、掲載されているレコード評には実在のサイドメンを配し、収録曲にはスタンダードナンバーも収録された内容となっており、現実味を感じさせる内容だ(この辺り、筆者のジャズに対する造詣の深さが存分に発揮されている)。
回想のストーリーから一気に今の時代へ。
ニューヨークのレコード店で、主人公は偶然にも「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」と題したLPレコードで見つけたというのだ。
読後感とすれば、作者の経歴と重ね合わせて読めば「後年、作家として大成するような人は早熟なのだ・・・」と思ってしまったのだが、「学生の頃こんな文章書いた」なんて独白も創作かもしれないなぁ、とか・・・。
史実はそれなりに盛り込まれていて、例えばC.パーカーを中心にしたジャズに関する描写など、ジャズファンとしては思わず引き込まれる内容。
たまたま見つけた『文學界』なのですが、しばし素晴らしいひと時を過ごしました。
アマゾンで当該雑誌のレビューを参照しましたら、やはりこの三作への言及が多くありました。ご興味のある方はそれらもご参照のほど。
なお、新刊の在庫がなく、ユーズドで2000円超の価格となっています。
(ちょっと行き過ぎのような感じもしますが・・・)